宇宙はとても広いので天体どうしがぶつかることはめったにありません。まして天体がぶつかったあとや証拠(しょうこ)を見つけることなんてほとんどないのですが、ある天文学者のチームがそれをなしとげたかもしれません。
ハッブル宇宙望遠鏡からのデータを使って研究している科学者たちがどうやら、広がっていきつつあるチリの雲を発見したようなのです。この雲は秋の1等星フォーマルハウトの近くを回っている2つの天体が、ものすごいいきおいでぶつかった時に生まれました。フォーマルハウトは地球から25光年のところにあって、太陽の15倍もの明るさを持っているんです!
それぞれの天体はだいたい直径200㎞、四国より少し小さめのサイズです。この衝突によって生まれたチリの雲は、直径が1億6千万kmにまで広がりました。それって太陽系での大きさに例えると、太陽から金星の軌道までがすっぽり入ってしまうくらいの大きさにひろがっています!
衝突した天体は「微惑星」(びわくせい)とよばれます。「惑星」という字が入っていますが、普通の惑星っぽくありません。惑星ほど大きくなくて、岩と氷でできた大きなかたまりのようなものです。形や大きさも色々で、集まっていけば惑星のようになっていく、そんなかたまりです。
天文学者たちははじめ、このかたまりはフォーマルハウトのまわりをまわる系外惑星だと考えました。ハッブル宇宙望遠鏡が数年かけて行った観測からは、その系外惑星が少しずつ見えなくなって姿を消したかのように見えたのです。
しかしハッブル宇宙望遠鏡のデータをくわしく調べてみると、そもそもそんな系外惑星はそんざいしていなかったのではないか、ということになりました。それは系外惑星ではなく、微惑星が成長して小惑星サイズになった2つの氷の天体がはげしくぶつかってできた、とてもこまかい粒子(りゅうし)のチリが雲になってひろがったものだとわかりました。ばくはつでふきとばされた物質が広がっていくように、この雲も広がり続けます。チリの粒子が広いはんいに広がるにつれて、雲は観測しにくくなります。この観測結果はまさにそのいい例です。
天文学者たちはこのようにフォーマルハウトの軌道上の2つの天体がぶつかるのは20万年に一度くらいと考えています。そんなできごとを目撃するなんてめったにないことですから、天体衝突(しょうとつ)についてより詳しく研究できる場面として貴重なものになりそうです。
写真提供:ESA/NASA, M. Kornmesser氏
知っ得ダネ
天文学者たちは、今から45億年前に微惑星が集まって火星くらいの大きさになったのち、当時の若い地球にぶつかってその一部がとびだして、私たちの月になったのだろうと考えています。
この記事はハッブル宇宙望遠鏡の報道発表によります。
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