たとえひとかたまりのパンであれ、宇宙をただよう岩であれ、何であってもいちばんの保存法は冷凍庫です。
太陽系には、専用の冷凍庫があります。それが「オールトの雲」です。オールトの雲は、海王星の軌道の外側にある彗星の集まった巨大な群(むれ)です。太陽からあまりにも離れているので、オールトの雲の温度は-250°C以下になるといわれています。
この冷たくて暗い場所は、太陽系が誕生したころのようすを保存しておくにはうってつけの場所です。マンクスと名づけられた彗星も、かつてはここにいました。
マンクス彗星は、実は名前とちがって小惑星だろうと考えられています。小惑星は、太陽系にある水星、金星、火星や地球といった岩だらけの惑星が生まれた時に、惑星になれずにとり残された岩のかたまりです。
マンクス彗星は45億年前、地球誕生と同じころに太陽の近くで生まれました。間もなく、この不運な小惑星は、太陽系のはしっこへと追いやられました。数10億年後に、太陽の近くへと帰ってきたので、たまたま見つかりました。
最近になって、マンクス彗星はオールトの雲から押しだされて、太陽の近くに行く軌道に乗りました。マンクス彗星は、この新しい軌道(きどう)で、860年おきに私たちのそばを通り越して飛んで行くでしょう。
太陽系には何千もの小惑星があります。それら全部が太陽の近くで何億年もの時間を過ごすことで、熱く焼かれました。でも、マンクス彗星は別です。マンクス彗星は、オールトの雲という、私たちの太陽系が持っている最高の冷凍庫で保存されていたのです。
これは、これまでに観測されたなかで最初の太陽に焼かれていない小惑星です。太陽系がずいぶん若かった頃の完ぺきな化石です。宇宙の中で、わたしたちの地球がどうなってきたのかという、刺激的(しげきてき)な新情報も明らかになるはずです。
知っ得ダネ
彗星が地球の近くにやってくるとき、太陽の熱のために表面の氷がすこし蒸発します。そして、夜空を横切るすてきな「尾っぽ」をつくります。マンクス彗星は他の彗星と同じ材料でできていないので尾はありません。というわけで、有名なイギリスのマン島に住む尾のない「マンクス」という猫の名にちなんで名づけらたのです。
この記事はESOからの発表報道によります。
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